two2miのブログ

とあるSIerで働いているネットワークエンジニアのブログです。お仕事のことは書けないので、ほぼほぼ参加した勉強会やセミナーのメモになりそうです。

閾値モデルの紹介とか

「明日の開発カンファレンス2019」で、10年近く続いている社内の改善活動についての発表をするのですが、登壇資料を公開できないので、せめて一般的な内容である、後半の「閾値モデル」についてブログに書いてみます。

出典は大学の研究室での課題図書だったリンク先の本になります。進化生物学の観点から社会心理学を捉えており、とても面白い本なので、今回の記事で興味を持たれた方はぜひ手にとってみてください。

複雑さに挑む社会心理学  改訂版--適応エージェントとしての人間 (有斐閣アルマ)

複雑さに挑む社会心理学 改訂版--適応エージェントとしての人間 (有斐閣アルマ)

 

マイクロ-マクロ関係

閾値モデルの前に、まずは社会心理学のキーワードである「マイクロ-マクロ関係」についての説明です。これは個人というマイクロな存在と、自分の所属する集団・社会というマクロな存在とが循環的なダイナミクスを取るという内容です。

ここでポイントになるのは、自分自身も集団の一部であるため、相互作用は1回だけではなく、ぐるぐる循環するという点です。書籍の中では、例として「裸の王様」が挙げられており、自らが周囲の沈黙に応じて沈黙することが、今度は周囲をよりいっそう沈黙させるという循環的ダイナミクスがあると書かれています。

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マイクロ-マクロ関係

マイクロ-マクロ関係については、下記のブログが参考になるかと思います。

diamd.hateblo.jp

 

閾値モデル

それでは、次に本題の「閾値モデル」の紹介になります。

これは社会学者であるマーク・グラノヴェッターが1978年に提唱した集団行動に関する理論で、後続の流行や暴動の拡大・縮小の研究に大きな影響を与えたモデルになります。 

その内容を簡単に書くと下記となります。

  • 各個人は行動を取る、取らないの選択肢を持つ。
  • その意思決定の際には「周囲の何割の人もその行動をしているか」という、集団内での行動の割合が影響する。
  • 各個人は、その行動の割合に対して一定の基準値(=閾値)を持っており、それは個人ごとに異なる。つまり、少数の人しか行動していなくても自分も行動するという人もいれば、大多数の人が行動しないと自分も行動しないという人もいる。
  • 集団行動が拡大するか収束するかは、最初に行動を取る人数(=初期値)により決まる。ここではマイクロ-マクロ関係による循環的ダイナミクスが発生している。
100頭のシマウマの群れの例

書籍の中では閾値モデルの例として、100頭のシマウマの群れがあり、個々のシマウマがライオンの気配に気づいて走り出すというシチュエーションが語られています。最初に走り出すのは閾値の高い低いがランダムに選別されたシマウマだとしても、それ以降の動きは閾値モデルによって当てはめて考えられるとしています。

まず各シマウマごとに、周りの何頭が走り出したときに自分も走り出すという閾値は異なるものですが、それをプロットすると下記のような分布になるとします。

図内でも記載していますが、「4割の閾値のシマウマが20%いる」とは、「周りの40頭が走ると自分も走るシマウマが20頭いる」ということを示しています。グラフの左にいくほど「すぐに走り出す高感度シマウマ」、右にいくほど「全然走り出さない低感度シマウマ」であるということになります。

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この分布図は各閾値の頭数をピンポイントでプロットしたものなので、周囲の影響を受けて走り出すシーンで考える際は、X割以下の頭数の総和という累積比率で考える必要があります。

最初に走り出したのが40頭の場合

例えば、最初に40頭が走り出した場合、影響を受けるのは閾値が4割以下のシマウマになるので、次に走り出すのは累積値の71頭になります。※今回の仮定の場合、閾値1割が5頭、閾値2割が13頭、閾値3割が33頭、閾値4割が20頭なので、5+13+33+20=71になる。

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この「閾値の累積比率」をそれぞれ算出して、グラフにしてみると下記になります。 

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次に、40頭のシマウマが走り出した場合、次に71頭が走り出すので、71頭が走り出した場合、閾値の7.1割以下のシマウマが走り出す、その次に、、というドミノ的プロセスが発生します。このシチュエーションでは、最終的に群れの全シマウマが走り出すことになります。それを図示してみると下記のようになります。

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最初に走り出したのが20頭の場合

別のパターンとして、最初に走り出したのが20頭だった場合を「閾値の累積比率」に当てはめてみます。この場合のダイナミクスは下記のようになり、最終的に群れ全体が止まる結果になります。※閾値2割以下の頭数は18頭になるので、走り出す頭数がどんどん減る。

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まとめ

閾値モデルの紹介を書きましたが、内容をまとめると下記となります。

  • 個人が行動を起こす際に影響を与える閾値については、個人差が存在する。※周りの人の影響をどれくらい受けるかは個人で異なる。
  • 集団においては、他者の行動に影響された自分の行動が、今度は他者の行動に影響を及ぼすという循環的ダイナミクスが存在する。
  • 循環的ダイナミクスが拡大するか縮小するかは初期値に依存する。

注意点として、このモデルはあくまでも数理的モデルになるので、現実世界にそのまま適用できるわけではないです。例えば、影響発信源の影響力や時間的、空間的な近さなどは考慮されていません。※これらの要素については「社会インパクト理論」で語られています(Latane&Wolf,1981)

そのまま適用できるだけではないですが、社会心理学の「マイクロ-マクロ関係」を端的に説明するモデルとしてとても面白いものだと考えていますので、集団行動について考える際に少しでも参考になれば幸いです。

補足1

有名なTEDの動画では2人目のフォロワーの重要性が語られていますが、これもマイクロ-マクロ関係、閾値モデルの例としてとても面白いと思います。

www.ted.com

補足2

「明日の開発カンファレンス2019」で聴いていただいた方に向け、資料の内容を再掲します。

集団行動においては、「行動を起こすのに閾値がある」「活動の拡大・縮小は初期の人数で決まる」ことから、改善活動を続けていくためには下記を意識するとよいのかもしれません。内発的動機の促進なども重要ですが、閾値モデル目線で絞っています。

  • 改善活動をはじめる際は、はじめに高い目標を掲げるのではなく、みんなが共通して困っていることから取り掛かり、実績をつくり徐々に改善活動を広めていく。※行動の閾値を下げる。
  • 「周りも活動している」という認知が生まれるための仕組み(初期から複数のグループをつくる。活動報告ルール)も合わせて実現していく
  • グループ内のメンバー間の相互作用、グループ間の相互作用といった、多層的な観点でも考えてみる。