2019/10/27 妊娠・出産・子育てをめぐる こころの健康を考えるII
先日、埼玉県で実施している妊娠・出産・子育てに関する市民講座に行ってきました。初めて知ったことも多かったのでブログにまとめてみようと思います。 ※当日の講演の中ではなく、あとで私が調べたものは(補足)と記載します。また、医療系の内容のため参照先は大学などの硬めなものが多いですがご了承下さい。 jps-saitama.jp
はじめに
妊娠・出産、子育てにおける母親への影響について知ることが大事。
- 産後うつなど。
- 母親の産後1年間の死亡原因の一位は自殺
子どもの心の発達では、最早期の母子のアタッチメント(情緒的結びつき)が最重要
妊娠・授乳の薬の服用について
- 安全と思われがちな漢方薬でも妊婦に投与しないほうがよいとの表現がある。
- 何を参考にしたらよいか。
1.国立成育医療研究センター、日本産婦人科学会ガイドライン(前者は市民向け、後者は医療従事者向け) www.ncchd.go.jp www.jsog.or.jp
2.参考になる本(どちらも医療者向け)
実践 妊娠と薬 第2版 ?10,000例の相談事例とその情報
- 作者: 佐藤孝道,林 昌洋,北川浩明
- 出版社/メーカー: じほう
- 発売日: 2010/12/10
- メディア: 単行本
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- 作者: 伊藤真也,村島温子
- 出版社/メーカー: 南山堂
- 発売日: 2014/11/26
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基調講演:赤ちゃん時代の体験が大人の心に与える影響
- 少子化で子供の数は減っているのに、子育ての相談の数は増えている
- フロイト、成人の精神疾患の発症要因として、幼児期のトラウマや心理的葛藤を想定。この頃(19世紀〜20世紀前半)にやっと子どもは無垢なだけでなく、感情や欲求があると考えられてきた。
- ルネ・スピッツによる情緒的剥奪についての研究。孤児の研究が発展する。
- ジョン・ボウルビーは、アタッチメント理論(愛着理論)を提唱した
- 子供が不安になったときに、親を求めて近づく行動をアタッチメントとよんだ。乳幼児期のアタッチメントの関係が安定していると、大人になってからの対人関係も安定すると考えた。
- ネグレクト(養育放棄)は、虐待と同じかそれ以上に子どもの心身の発達を阻害する。
- 統合失調症は先天的要素と後天的要素の複合で発症する。先天的要素も1つの遺伝子だけでなく複数の遺伝子が関わって発症する。
- 幼児期の記憶は「手続き記憶」の領域に記憶されていて「身体が覚えている」。悪い記憶も身体が覚えてしまう。
(補足) アタッチメント理論についてざっと調べましたが、養育する人間(母親でなくてもよい)との信頼関係の形成が重要であるということのようです。※接触は信頼関係の形成における手段であり目的ではない。また安全基地という表現も見られ、子供は安全な場所から徐々に探索をすることで、様々なことを学んでいくようです。
シンポジスト1:妊娠・出産とメンタルヘルス 産科医の立場から
- DSM-5という医者向けの書籍でも、周産期(妊娠22週から出生後7日未満までの期間)の抑うつは1ページくらいしか言及されていない。
- 女性の3~6%が妊娠中〜産後に抑うつが見られた(帝王切開とおよそ同じ割合とのこと)
- (補足)10〜15%という記事もあり、珍しいものではないという認識が必要。
- 妊産婦死亡率の変遷
- 自宅分娩→助産所→診療所→病院での分娩にシフトしていっている。高度な医療が受けられるようになったため妊婦死亡率は減少している。
- 東京都における妊産婦の死亡数の年次推移(10年間)
- 10年間で妊産婦(産後1年まで)の異常死89例中63例が自殺
- 妊産婦の身体的管理は一定水準に達してきている。精神面でのケアに注力して取り組む時期
- 日本産婦人科医会のMCMC認定研修会で医者向けのeラーニングもしている
- 妊産婦への対応の基本
- 傾聴と共感(問題解決ではなく気持ちの理解を優先)
- 言ってはいけない言葉。
- 頑張ればなんとかなる。昔は〇〇だったのになどの責任感を煽る言葉。
- 支援が必要な妊産婦のスクリーニングと多数のステークホルダーとの共通言語としてアンケートと質問表を活用
- 産婦人科と精神科の協調を強化していくべき
(補足) 2016年の資料ですが、周産期におけるメンタルヘルスケアのものがありました。 厚生労働省 「周産期医療体制のあり方に関する検討会」 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000134649.pdf
シンポジスト2:周産期メンタルヘルスケアにおける助産師の役割
- 社会構造の変化により、育児不安を抱えて子育てを行っている母親も多い
- 早期に妊婦に関わることのできる医療機関が周産期メンタルヘルスケアに関わる重要性
- 周産期のうつ病好発時期に、うつ病の「病状」と「リスク因子」をスクリーニングし、ケアを提供することが重要
- スクリーニングをしてどういったサポートをしていくのか。早期発見、早期治療が大切
- 産後よく耳にする言葉
- 赤ちゃんの体重増加が心配(成長していない気がする
- 母乳が足りない気がする
- こういった言葉は身体的問題ではなく精神的問題が起因のことがある
- メンタルヘルスケアのマイルストーンは妊娠期、入院中、産後2週間、産後4週間、(産後6週間)、産後3ヶ月
- EPDSなどのスクリーニングツールで状況をチェックする
- 入院中に問題がなくても、産後に不安定になる場合もある。
- 産後3ヶ月でうつ病を発症しなければそれ以降で発症する可能性は少なくなる
- メンタルクリニックと共有すべき内容(助産師がメンタルクリニックに紹介状を書くときの内容)
- 妊娠期の患者の様子
- 紹介者が心配だと思った内容
- メンタルクリニック受診時に症状が落ち着いていることがあるため、ログとして残しておく。
- 夫婦間のパートナーシップとして、夫の姿勢としてよいと思った事例
- 今日何があったのか傾聴する、褒める。お昼休みに電話したりして「よく午前乗り切ったね」と言葉にして伝える。
- うつ病と無縁だったのに産後うつになる人の共通パターン
- (自分の求めている)サポートがない場合
- 身体的なサポートではなく、精神的なサポートが足りない(子育てを頑張っていることを認める言葉、達成感を感じさせる)
- (自分の求めている)サポートがない場合
シンポジスト3:泣いている赤ちゃんにどうしたらいいの?
- 赤ちゃんの”泣き”の生理について。
- 小児科の教科書(Nelson)では、どの時期に泣くかは世界共通。泣きのピークは生後6週頃、夕方から夜にかけてが多い。3〜5ヶ月程度持続する
- 何もなくても激しく泣く疝痛(せんつう),Colicについて。
- 痛がっているような激しい泣きだが、正常な乳児にみられる(正常=空腹やおむつ、発熱、怪我などのチェックをしたが何も原因が見当たらない場合という意味)
- 生後2ヶ月ころから始まり、乳児の20%にみられる。
- 泣き始めると2時間くらい継続する。
(補足) 疝痛の原因はまだ仮説の域ではっきりとは分かっていないようです。消化管の反応という説や、下記のように「子宮内の一定の音と刺激を恋しがっているから」という説もあるようです。 www.stellamate-clinic.org
- その他気をつけておくポイント
- 尿路感染症
- 鼠径ヘルニア
- ターニケット(髪の毛が指に巻き付いている)
- 泣きへの対策
- ミルクをあげる。時間を決めた定期的な授乳により乳児のストレスが減る
- おむつを替える
- 抱っこをする
- おくるみで包む
- ビニールをくしゃくしゃする
- 抱っこして歩く。乳児の心拍数が低下して泣きが減ることがある
(補足) 哺乳類の「輸送反応」について www.riken.jp
- 赤ちゃんをあやしたのに泣き止まないと、親は自分のせいなんだという自責につながってしまう。様々な点をチェックしたのに原因が分からない場合は、疝痛のときもあるので、いったん様子見をする勇気も必要。
- (補足)疝痛と判断した場合の対処を質問しましたが、子どもをベッドに泣かせていったん離れ、30分ごとに様子を確認するなどのルール決めをすると親のストレスも低減できるのでよいとのことです。
子どもをあやすときの注意事項
- あやしているのに泣き止まない子どもを何とか泣き止まそうとして前後に揺すってしまうと、「揺すぶられっこ症候群」になる。
- 子どもの脳は、大人に比べて頭蓋内で安定していないため、強く頭が前後に振られると中の脳が移動し、血管が断絶したりしてしまう。
- 可能な限り調べても異常がない場合は、無理に泣き止まそうとするのではなく、その場を離れても問題ないと判断。
(補足) その他の乳幼児の泣きについての参考記事
まとめ
アタッチメント理論や産後うつの確率、疝痛、 揺すぶられっこ症候群など知らないことが多かったので行ってよかったです。まだ子どもはいないですが、引き続き勉強していきたいと思います。